奥飛騨の平湯温泉に妻と一泊旅行。上高地まで足を延ばし、梓川沿いに河童橋から明神池まで3キロほどの行程を往復した。62歳ペアにとっては足並み軽くとはいかない距離だが、緑の中、渡る風が心地よかった。何度か訪れている上高地だが、これまで行ったことがなかった明神池は澄んだ水をたたえ、周辺は静寂で美しく神秘的だった。

60歳で37年余り勤めた会社を定年退職し、3年目になる。もし多くの人がそうするようにそのまま65歳まで仕事を続けていたらどうだっただろうか。夜、平湯の源泉に浸かりながら思った。65歳から3年目にあたる67歳時点で往復6キロを歩いて行ってみようという意欲は湧いたか。同じ60代といっても、この5歳の違いは体力的にも心理的にも大きい気がした。

退職後約半年、休職手当を受給し終わり、週2日の短時間パートを始めた。体と頭を動かし、ぼけないように、そしてわずかでも生活費の足しになればと思い立った。今はこの「小さな仕事」が定着してきた。家計は、妻が毎月パート代の一部を入れてくれているが、夫婦二人暮らしの生活費の半分以上は預貯金や個人年金に頼っているのが現状。だが現役時代の肉体的、精神的な負担からほぼ解放された。
もちろん心配事が全くないことはない。長いかもしれない老後の資金だったり、いつか病気や要介護にならないか、もう独立したとはいえ子どもたちのことだったり…。ただこうした心配の種はこれからもなくなることはないだろう。日常の暮らしは贅沢はできないけれど、日々を平穏に過ごし、小旅行を時々楽しみ、新しい体験に前向きな気持ちを保てているのは幸いだ。一時は50代前半での早期リタイアを考えたことがあったが、その後定年までに少しでも蓄えができたのは結果的によかった。
60歳で現役を引退するのか、65歳まで続けるのか、どちらがベターか。定年退職をして2年半経った今、振り返ってあらためて考えてみると、この5年をどう過ごすかは、人生、中でも老後の充実感にとって小さくない差が出ると思う。人それぞれに価値観や諸々の事情は異なるから一概に言うつもりはないが、私の場合はやはり、60歳の節目でけじめをつけ、いったん足を止めてみるという選択は有意義だったと現時点では思える。65歳まで続けていれば預貯金はもう少し増えただろうが、心身ともにまだ余裕があるうちに自由な時間を持てているのは何ものにも代え難いことだ。

60歳での定年退職を最終判断するにあたり、65歳まで5年の時間を高いお金で買うと考え、できるだけ無駄に過ごさないようにしようと決意した。実際は家でダラダラすることもあるが、それも自由だからこその恵みである。これから65歳までの後半も、神仏に感謝しつつ謙虚に、妻との人生を愉しんでいきたいと思っている。


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